YTさん、初めまして。 この問題は、我々にとっても今、大問題になっています。本当に大変な事になってしまいました。 そもそも、保険でできる、できないというのは、厚生労働省からお達しが来るのです。 そして、そのルールは厚生労働省と保険者(一般ピープルから保険料を集めて、我々医療機関に支払う組織)が決めて、我々に通達します。
今から10年以上前には、口蓋裂の方以外の矯正治療はすべて健康保険の適用にはなっていませんでした。従って、外科手術の必要な矯正治療も矯正治療部分には保険は適用されず、外科的な処置については「顎変形症」なので、健康保険が適用されていました。当時は私も含めて、誰もこれについて深くは考えていませんでした。
そして、おおむね10年前、手術前の矯正治療は外科手術する前に必要不可欠なので、健康保険を適用しましょうということになりました。ただし、この保険の適用には各政令指定都市の指定の医療機関となる必要があります。この指定を受けるためには歯科医師としての経験や研修、その医療機関の施設基準というものがあり、簡単に指定を受けられるものではありません。そのため、北海道ではこの指定を受けた医療機関が多いのですが、その他の地域はそれほど多くはないと聞いております。 このため、術前矯正治療が健康保険の適用になっても、術前矯正治療は自費で、外科的な手術は保険で行なうことに、だれも疑問を持たなかったのです。
さてここで「混合診療」という言葉を聞いた事があるでしょうか?これは、何が混合しているかと言うと、保険診療と自費診療が混合しているという意味です。健康保険で治療する場合には、この「混合診療」は行なってはならないというルールがあります。つまり、1本の虫歯を治す時に、神経の治療と土台を作る所までは保険で治療して、その上に自費で作った金属の冠を自費で被せててはいけないという事です。自費で治療できるなら、根の治療や土台の治療も自費でやって下さい。あるいは、保険を使うなら金属の冠も保険でできる範囲のものを入れて下さいと言うことです。私もこれがなぜかは解りません。しかし、これはルールですから、どうしてというものではないのです。
さて、外科治療を行なう矯正治療に話を戻すと、自費で歯を並べて、保険で外科手術を受けるというのは、まさにこの「混合診療」ではないかと言うのが、今回の厚生労働省のご指摘です。 このため、術前矯正治療を自費で行なった患者さんは、外科手術も自費で行なって下さいと言うことです。YTさんが、手術前矯正治療を始められる前に、この事が解っていれば対処のしようもあったのですが、昨年の厚生労働省のある大学病院に対する監査でこれが指摘され、数十億円にのぼる保険診療の報酬の返還が要求されました。もし、術前矯正治療が保険適用できる医療機関で行なわれていれば、外科手術も保険が適用になる事がお判りになると思います。
以上、これまでの経過を書きました。患者さんにとっては、本当に晴天のへきれきのような状態で大変申し訳ないのですが、国が決めたルールですので、我々矯正歯科医にはなんともしようがありません。せめて、今後1年とかの経過措置があると良いのですが、それも残念ながら今のところ話しは聞きません。なんとか患者さんに迷惑をかけない方法として、保険で術前矯正治療を行なう事のできる医療機関への転院を勧めるしかないのではないかとの話まで出てきています。 何の力にもなれなくて、ごめんなさい。
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